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アートコラム

2022/11/10

財団設立40周年記念インタビュー「江東区の文化~未来へ~」第7回

「映画と江東」

無声映画の魅力はライブ感

 無声映画は音声のない映画のことで、世界中に多種多様な作品が残されています。この無声映画のストーリーに合わせ、セリフや説明を生で語るのが活動写真弁士で、存在するのは日本だけといわれています。最盛期は大正時代から昭和初期で、7千人以上が活躍していたそうです。
 また、台本づくりも弁士の仕事で、ストーリーの本筋さえ守れば、自分の感性やことばで語ることができる。これが弁士の醍醐味です。
 上映する時は弁士の他に、楽士による生演奏も加わります。そのため、単に映画ではなく、臨場感のある演劇的なライブパフォーマンスの魅力も生まれます。弁士が台本を書くように、演奏する音楽は楽士の解釈によって決まるため、同じ映画でも印象が変わったり、何度観ても飽きないですね。
 幅広い年齢層が楽しめるのも無声映画の特徴です。チャップリンやキートンなどの喜劇は、こどもも楽しんでいただけます。

思い出の作品『瀧の白糸』

 私が弁士になったのは1972年、渋谷にあった薬学会館で弁士・松田春翠先生の名調子を拝聴したのがきっかけです。
 この時の作品は泉鏡花の『瀧の白糸』。監督は小津安二郎と共に人気を博した名匠・溝口健二。主演は入江たか子、岡田時彦という当時の最高の美男美女でした。映像のすばらしさと活弁の迫力、琴線を揺さぶるような生演奏の3つが一体となって迫り、涙を流しているお客様もいて深く感動しました。
 活動50年の節目に、この忘れ得ぬ『瀧の白糸』を古石場文化センター「シネマフェスティバル」のオープニング作品に選んでいただきました。多くのお客様にお運びいただき、無声映画の楽しさを体感していただきたいです。
 シネマフェスティバルでは小津作品もよく取り上げていますが、古石場文化センターの魅力は、なんといっても世界の小津監督の生誕地で「小津安二郎展示紹介コーナー」があり、小津監督と地域が密接に結びついてるところです。
 月に一度、門前仲町駅からセンターに向かう途中、小津監督ゆかりの「小津橋」を渡ります。空でウミネコが鳴いていたりして、その道のりがとにかく楽しいのです。小津さんもこの橋を渡っただろうか、小津さんが通ったお店は残っているだろうか、などと考えながら歩いています。こういった楽しさが味わえるのは、古石場文化センターだからこそだと思います。

活動写真弁士の未来

 古石場文化センターとは開館当時から本当に長いお付き合いです。年に3回、無声映画鑑賞会を開催させていただいたり、「弁士にチャレンジ」講座は今年で16年目になりました。受講生は老若男女20人で、毎回受講してくださっている方もいます。とても雰囲気が良く熱心な方ばかりで、講師をさせていただけることは本当にありがたいです。
 講座は全8回で、アニメや時代劇、洋画など3分程の活弁を実践します。最終回は発表会を行いますが、そこに至るまでの努力がすばらしくて、皆さんから教えていただくことも多いですね。門下で弁士として一緒に活動している山城秀之と山内菜々子は、この講座の卒業生なんですよ。
 今、プロの弁士は10人程しかいませんが、これから増えていくような気がしています。弁士に免許は必要ありませんし、フィルムの保管方法もデジタル化され、昔の作品を良い状態で残せるようになりました。新作の無声映画をつくっても良いですし、可能性はいくつもあると思っています。

(聞き手/片山祐子)

プロフィール

澤登 翠(さわとみどり)さん

東京都出身。法政大学文学部哲学科卒業。故松田春翠門下。活動弁士として今年50年を迎える。国内はもとよりフランス、アメリカ他の海外公演を通じて、弁士の存在をアピールし、「伝統話芸・活弁」の継承者として"活弁"を現代のエンターティメントとして甦らせた。文化庁芸術祭優秀賞他数々の賞を受賞。

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