石田波郷記念館「江東歳時記」賞
せみの声空高くまですき通る
小学 六年 井川 真由
読売新聞社賞
木の下で父から借りる夏帽子
小学 六年 中村 天太
特選 大谷弘至選
せみの声空高くまですき通る
小学 六年 井川 真由
特選 大谷弘至選
午前二時つけっぱなしの扇風機
小学 六年 中村 天太
深夜、まだつけっぱなしになっている扇風機。暑くて寝苦しくてつけたままなのか、ただ消し忘れたのか、それとも消すのが面倒だったのか、いろんな理由が考えられます。この俳句は、ただ扇風機を描いただけのように見えますが、その背後には夏の夜の静けさや、夜に感じるちょっとした寂しさが隠されています。それによって、この句はとても奥深いものになっています。
特選 大谷弘至選
木の下で父から借りる夏帽子
小学 六年 中村 天太
とても暑い日だったのでしょう。いったん木の蔭に入って、お父さんから夏帽子を借りたんですね。お父さんは、まるで大きな木みたいに、子どもを包み込むような優しさを持っています。この句は、言葉はとてもシンプルで素朴ですが、そのおかげもあって、心にじんわりと響く、素敵な一句になっています。
入選 大谷弘至選
星の恋空見上げればキラキラと
小学 六年 井川 真由
入選 大谷弘至選
カブトムシみんなにんきのくろいはだ
小学 二年 戸田 蒼唯
入選 大谷弘至選
大すきな夕やけの川おうぎばし
小学 二年 西山 輝
入選 大谷弘至選
なつまつりおおはりきりでラムネのむ
小学 二年 錦織 有陽
入選 大谷弘至選
はかまいりきらきらひかる水の声
小学 二年 森下 千菜美
特選 日下野由季選
せみの声空高くまですき通る
小学 六年 井川 真由
夏の真っ盛りに鳴く蝉の声。公園や森の中へ行くと、蝉の声が空から降り注いでくるかのように感じます。暑苦しさを感じる蝉の声でもありますが、この句はその蝉の声を、清々しく表現しました。「すき通る」の一語に意外性があり、作者ならではの発見が実に見事です。
特選 日下野由季選
温泉の町ふき上がる大花火
小学 五年 佐波 しずく
温泉の町の夜空に揚がる大きな花火。地元の人だけでなく観光に来た人たちもたくさん見ていることでしょう。この句の魅力はやはり「ふき上がる」というところ。大花火をそのように表現できたのは温泉の町だからだと思います。
特選 日下野由季選
さあ引いてみろよとばかり夏の草
中学 二年 伊野 千尋
勢いよく丈を伸ばして茂っている夏の草。その夏草が自分の力強さを「どうだ」というように「さあ引いてみろよ」と言っているかのように感じたところが面白かったですね。作者と夏の草が向きあっていて、いきいきとした句になっています。
入選 日下野由季選
神様がカーテン開くと梅雨明ける
小学 五年 宮澤 東臣
入選 日下野由季選
春昼や独りぼっちの雲浮かび
小学 五年 曽根 悠聖
入選 日下野由季選
上履きを洗って明日から夏休み
小学 四年 中川原 一乃丞
入選 日下野由季選
夏休み本の世界で大冒険
小学 五年 横山 心音
入選 日下野由季選
グローブをきれいにみがいた夏の夜
小学 五年 鈴木 貴大
風景賞
飛び込み台私の妹鳥になる
小学 五年 長縄 遥香
カメラは一瞬を写しとめる道具ですが、なかなか「まさにその瞬間」が写ってくれないもの。この作品は飛び込むイメージと空に舞うイメージが重なり、さらにプールの水面が美しく表現できました。夏休みのキラキラした思い出となりました。
特選 大西みつぐ選
夏休み布団にこもるおねえちゃん
小学 四年 丸山 俊輔
おねえちゃんの「大の字」が見事に撮れました。夏休みならではの解放感でもあるようです。画面いっぱいにおねえちゃんを入れたのがよかった!去年よりまた身長も伸びたことでしょう。
特選 大西みつぐ選
桃食べて思い出すのはおばあちゃん
小学 六年 小谷野 彩
とてもシンプルな写真。絵画にもなりそうです。やわらかな光が美しく、桃らしい「質感」も描かれています。何よりも、おばあちゃんを思い出したところがいい。ほのかな甘い味はいつも優しいのです。
特選 大西みつぐ選
汗ふきでいくらふいてもとまらない
小学 五年 髙橋 慶多
暑かった今年の夏をよく象徴する写真。髪の毛から首筋に流れる汗の感じがよく伝わります。さらに左斜めからの光が耳たぶを美しく染め上げています。みんな元気な夏でもありました。
入選 大西みつぐ選
猛暑でも大谷したかなバント練
小学 四年 堤 蒼一
入選 大西みつぐ選
声響く街中みんな夏祭り
小学 三年 菅原 侑平
入選 大西みつぐ選
てらされてうきでる夜のふじの花
小学 五年 佐波 しずく
入選 大西みつぐ選
なぜだろうおばけにみられわらってる
小学 二年 平野 柊
入選 大西みつぐ選
夏のいけサップですすむ光るみち
小学 二年 山田 こう
俳句結社「古志」主宰。
2011年に長谷川櫂より「古志」を引き継ぎ、主宰となる。小林一茶および幕末・明治の俳諧を研究。
句集に『大旦』(角川学芸出版)、『蕾』(花神社)、著者に『小林一茶』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典、角川ソフィア文庫)、『楽しい孤独 小林一茶はなぜ辞世の句を詠まなかったのか』(中公新書ラクレ)。
俳句結社「海」編集長。
第二句集『馥郁』(ふらんす堂)にて第四十二回俳人協会新人賞受賞。第十七回山本健吉評論賞受賞。
主な著書、監修本に句集『祈りの天』(ふらんす堂)、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(日本文芸社)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(成美堂出版)がある。
写真家。1952年、深川生まれ。
1985年荒川河口を舞台にした「河口の町」で第22回平凡社太陽賞受賞、1993年「遠い夏」ほかにより第18回木村伊兵衛写真賞。2017年、江東区を東西に流れる川を舞台にした「小名木川物語」を監督した。同年、日本写真協会賞作家賞受賞。
写真集・著書に「wonderland」、「下町純情カメラ」、「東京手帖」ほか。個展企画展多数。
【講評】
夏のあいだ、盛んに鳴いている蝉ですが、その声をうるさいと感じる人も少なくないようです。その一方で、「あわれ」と感じる人たちもいます。それは詩人です。たとえば松尾芭蕉は「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠みました。そんな芭蕉とおなじように、この俳句も蝉を詠んでいますが、「すき通る」とは、まさに詩人の直感。みごとに「あわれ」を描き出しています。